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◆「命が縮まるから」
次のような話を聞いたことがあります。
時代はWHO方式がん疼痛治療法が導入される1986年以前の話です。
終末期、父は痛みに苦しみ呼吸も苦しそうでした。とうとう最期という時、担当だった医師は家族全員を集めモルヒネの注射を片手に、「では、いいですか?」と私たち家族に問いかけてからその注射を打ちました。そして父は静かに亡くなりました・・・。
私はさまざまな人の体験を聞くまで、モルヒネがこんな使われ方をされていたことを知りませんでした。大量のモルヒネを使うことで痛みと苦しみは消え眠りにおちます。命が縮むという誤解はこういった印象が未だに残っているからかもしれません。
今の痛み治療のスタンダードであるWHO方式がん疼痛治療法では少量の医療用麻薬から開始し段階的に増量していく方法なので、死に至るほど大量のモルヒネを投与することはありません。疼痛緩和治療(がんの痛み治療)を実践する複数の医師に、医療用麻薬を使ったために命が縮まるという経験があったかと聞いても、そんな経験はないと答えが返ってきています。
命が縮まるというのは誤解なのです。
◆「依存症になるから」
「麻薬」と聞くと犯罪を連想する人も多いと思います。
同じ麻薬でも「不法麻薬」は使うと快楽・幸福感を味わいます。健康な人が麻薬の味を占め依存症になって抜け出せない・・・、そんな印象を持っていると思います。それは間違いではありません。正しい印象です。
でもがんの痛みがある人に「医療用麻薬」を使うと依存症はほとんど起こりません。
不思議ですよね。
強い痛みがある状態にしたマウスを使った実験でそれが証明されています。マウスの体の中ではモルヒネのような麻薬成分を自ら作り出しています。痛みを少しでも和らげようとする体の苦肉の策です。作られる量は極微量で足りないので、麻薬を補充してやります。補充された麻薬を使ってやっと十分に痛みがとれるようになります。その時麻薬は痛みをとることに作用し、快楽を感じる作用には働かないことがわかりました。快楽を感じないなら依存症は起こらないといえるでしょう。
医療用麻薬を正しく使えば依存症が起こらないのです。
(鈴木勉 モルヒネ様(μアゴニスト)オピオイド鎮痛薬の薬物依存・耐性発現の内因性オピオイドκ受容体活性化による抑制.鎮痛薬・オピオイドペプチド研究会編:オピオイドのすべて.エルゼピア・ジャパン,1999,
179-187 より)
◆「最期の時みたいだから」
昔は終末期の患者さんにだけモルヒネが使われていたため、モルヒネを使うと最期が近いという印象が残っている人もいるかもしれません。
でも、初期からがんの痛みのある人がいます。がん治療をしながらがんの痛み治療をする人はたくさんいます。反対に最期まで痛みのない人もいます。
それはがん細胞のある場所によって痛かったりそうでなかったりするためです。医療用麻薬=最期というのは少し短絡的過ぎると思いませんか。
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